それは突如具来(ぐらい)した
かつて何者も遭遇したことのない
異形の巨獣は奇声を上げ
アハルテキンに生きる総べての命を
肉塊に変えてしまったのだ
罪人を流刑した醜悪と狂気の異次元
邪界
一度そこへ投獄された者は
想像を絶する地獄を味わい
死ぬか、狂うか
人間であることを捨てる
長きに渡ってタブーとされてきた邪界の
真相追求、その穿った思慮が
悲劇を生み出してしまった
固く護られていたはずの邪界門の封印は
巨獣の力によって決壊
流れ出した混沌により
一夜にしてアハルテキンは魔都と化す
しかし、ただひとり、変塊しなかった者がいた
幼くして国の最高権力者となった
イステハイネ王姫である
当惑、混乱するイステハイネの前に現れたのは
かつて邪界に追放されたはずの実妹カリエランテ
驚くべきことに、カリエランテは冤罪によって
幽閉されてから2年間、絶望的世界にあって
発狂することも自殺することもなく
ひたすら姉、イステハイネが
救いに来てくれることを信じて待ち続けていた
ついに邪界から解放された彼女は
眼前に佇み怯える姉を見据えながらこう呟く
私と同じケダモノにしてあげる