Idioteque



胎内の揺りかごで成長を続けるのは、
明らかに人のそれではなかった。
そうと知りながらも愛でながら子守唄を歌うイステハイネ。
イディオテック(白痴)…イディオテック(白痴)…
産まれてくるのは獣か龍か。
母乳を滴らせて膨れた腹を撫で上げる。

そんな姉の姿を見下ろしながら
カリエランテは二人の思い出を蘇らせた。
王の寵愛を受け圧倒的な権限を持つ第一王妃もあり、
腹違いのカリエランテの立場は宮廷内でさえ邪魔者扱いであった。
そんなひとりぼっちになりがちなカリエランテに
いつも優しく接してくれたのがイステハイネだ。
イステハイネは既に幼少のころから美しく淑やかで、
ピアノやヴァイオリン、絵画や詩の才能も秀でていた。
気配りも行き届き、プリンセスであることをひけらかさず、
誰からも好かれている。
派閥の抗争で孤立しがちなカリエランテを城から連れ出し、
街の人たちには愛されているのだと励ましたし、
カリエランテが責められそうになるといつもかばっていた。
カリエランテはイステハイネが大好きだった…。
そして、自分に劣等感を抱いていた。
このひとに自分は生涯及ばない…。
美しさも優しさも知性も芸術的センスも…、
何一つ姉より優位な立場に立てる要素がない。
カリエランテはこう考えるようになっていた。
いつか姉さんが地獄に堕ちればいい…
誰からも必要とされず、才能も美貌も意味のない世界で、
絶望すればいい…。
そして、私が…私だけが姉さんを救い出すのだ。

 

第七話 産声









 

 

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