04.人外の恋

苦悩し続けたあげく、女は掟を破った。
殺すことができなかった。
生まれて来た子供は、本来ならば妖獣のはずだったのに
今、この胸にしがみついて、小さく震えているものは
あまりに人の姿をしていたからだ。
村の人々には、生まれてすぐに死人川へ流したと伝え、
地下にある冬越えの食料貯蔵庫に子供を寝かすと、毎晩
乳を与えてあやしてやった。確かに自分を力ずくで強姦した
妖獣は許しがたかったが、この子に何の罪があるだろう。
女は夫に先立たれ、村の者とも上手くあいいれず、
長く孤独であった。そんな心の隙間に、この子の笑顔が入り込む。
ケダモノの半身を見ては苦しみ、何度も殺そうとした。
それは憎しみからではなく、決して誰にも愛されることは
ないであろう我が子の運命を哀れんでのことだ。
その度、怯える子供の瞳を見て我にかえると、
抱き締めながら泣く日々が続いた。
子供はやがて8歳となる。母親から見れば、それは
美しい娘に成長していた。言葉は覚えなかったが、
母を理解し、愛してくれているようだった。
しかし、そんな時間も長くは続かなかった。
ついに村びとたちに発見されてしまったのだ。
女は村人たちに棒で殴られ、石をぶつけられながらも
必死で娘を抱えて森の中へと逃げ延びる。だが、
流れる血も拭わず走り続けたため、三日後には力尽き、
女は息をひきとった。最後に薄れゆく意識の中、
不安そうに体をすり寄せてくる娘を感じながら、
女は不思議と悲観してはいなかった。

狩人をして暮らしていた青年が、ある日森の中で迷ってしまった。
三日三晩徘徊したあげく、霧の深い、樹海の奥へ入り込んでしまう。
そこで青年は、幻想的な動物に出会った。それは、上半身は
裸の少女で、歳は14〜5、白い肌と細い腕、そして黒く大きな瞳、
だが下半身は虫の幼虫のようで、酷く醜悪な姿をしている。
その両面がひとつに融している様は、無気味であり、
同時に妖艶であった。最初怯えているようだったそれは、
少しずつ青年に近付いてくる。青年はその現実離れした感覚に
ここは黄泉の世界かと錯覚さえ起こしていた。
すぐ目の前に迫った半妖の娘は、うがいをするような声で、
おでこの触覚をピクピクさせている。青年がスッと手を伸ばすと
娘はビクッと驚いたが、その手が優しく頭を撫でると、すぐに
体の力を抜いて青年にすりよってきた。青年は思い出す。
4年ほど前、村から追い出した妖獣の子とその母親、結局山狩りを
しても子供のほうは見つけることはできなかった・・・。
これがあの時の子供なら、村人を恐れて出てなど来ないはず、
それでも出て来たのなら・・・ずっとひとりぼっちで寂しくて
たとえ殺されてでも、温もりが恋しくてたまらなかったからか?
青年はギュッと娘を抱き締めた。

一線を超えるのに時間はかからなかった。
この森でふたりきりの生活が始まりたったの二日だ。
娘は瞳を潤ませて切ない声で泣きながら青年にくっ付いて
自慰行為を始める。甘い香りと艶かしい音色に打たれてか
青年は若く滾る情欲を娘にぶちまけた。想像を絶した快感に
青年は一瞬で爆ぜる。息を乱しながらヌルついた娘の肢体を抱き、
射しては勃ち、射しては勃ち、何度も娘に種子を打ち込んだ。
その度娘は全身をビクビクと痙攣させながら、それを貪るように
飲みしだく。娘のそこは、人の女のそれより遥かに精密で、
出させるために特化した究極の器官だ。娘は自分の子宮に
熱い迸りを感じると、歓喜に顔をゆがめた。

産卵の度に、娘はブルブルと震えながら奇声を上げる。
涙を流し、目は左右違った方向にグリグリと動き、
口は涎を垂らしながら笑っている。青年はゾッとした。
彼女は妖獣の姿をした人間ではなく、人間の姿をした
妖獣なんじゃないのか? 自分は愛されているのではなく、
ただ子孫を残すための道具程度にしか考えられていないのでは
ないだろうか? だが、たとえそうだとして何になる。
殺すことも死ぬことも出来ない臆病な自分にできることは
ただこうして永遠を彼女に委ねるしかない。
無数の卵にかこまれながら・・・。

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