04.隠蔽論

唖然とした。100年経ってもこうなるだろうか?
それほどこの建造物は爛れていた。
ガラスが全て粉々に砕け散っている管制室、
ロッカーが潰された作業員の休憩室、廊下や階段、
責任者の事務所と思われる部屋にいたるまで、
その様相は信じ難く荒廃。崩れ、拉げ、腐っている。
5人は歪んだ床面を一歩一歩確かめながら、おそらくは
完全に機能を停止しているこの建造物を探った。
電話もエレベーターも動かず、ライトもいまに消えそうだ。
「だめね…ここには誰もいない」
「さしずめ幽霊船てとこか」
二階堂が爪を噛む。医務室で休憩しながら片方の消えた
蛍光灯を睨んで岩井が何かぶつぶつ呟き始めた。
「なんだよ岩井、それって癖なのか?」
訊ねる二階堂を無視し誰に答えるでもなく細く話す岩井。
「…折角、折角助かったと思ったのに…」
「でもでも岩井さん、雨風は防げるよ。もしあのまま
 ボートに乗ってたら波に飲まれてたかも」
「そしたら他の連中の仲間入り、人魚姫よろしく
 水の泡になってたわね」
早坂の気遣いも意に解して尚、デリカシーのない瑪瑙の発言。
「結局なんなんだココは…」
床にへたり込んで足を伸ばす二階堂、白く細く、スラッと
伸びた足は汚れた床から妙に浮いて見えた。答える早坂は
「さっきの部屋でほら…オイルパイプラインとか何とか…
 ひょっとすると石油を掘ってたとか…」
「いや、言い方悪かったな。つまりなんでこんな
 ボロボロなんだってね。そりゃ古いってのもある
 だろうけどさ、どっちかって言うと荒らされたっつーか…」
「何だろうね…少し休んだら次は下のほう探してみよう。
 とにかく何かしらの連絡手段はあるはずだよ」
「ひょっとしたら…」
唐突に瑪瑙が唇に手を当てて一言、二人の会話を切った。
「ヤバイとこにいるのかもしれないわね、私達」
「瑪瑙さん! またそうやって不安を呷る!」
いよいよ岩井が立ち上がって怒り出す。
「あれだけ酷い目にあって、みんな精神の限界なんですよ!」
「あれだけ酷い目にあったんだからもう酷い目にはあわない。
 そういうものでもないでしょう。問題は、どうにもここの
 荒らされ方が徹底しているってこと。人為的なものが
 介在したと見てるんだけど…事故にしろ何にしろ、
 まるで何かを隠すために潰して回った。そんな気がするわ。
 …さっきの管制室も爆薬さえ使ったような痕跡が…」
「やめて! もうたくさんよっ!!」
岩井が再び泣き始めた。瑪瑙は肩を竦める。二階堂が
「瑪瑙…」
とシグナルを送るが、
「ハイハイ、私は冷血女ですよ」
と素っ気無くそれを振払った。
瑪瑙の主張はこうだ。つまりトラブルがあって、その事実を
隠蔽するために職員たちはここを破棄した。だから外部との
連絡手段なんてまっ先に潰している、と。
…しかし、岩井を始めとして、瑪瑙の意見は拒否された。
早計に判断せず、もう少し情報を集める必要があるからだ。
この判断が後に5人を奈落へと落すことになるとも知らずに…。

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