ザバァッ!!
「ぷはっ! みんな大丈夫か!」
二階堂が必死の形相で他の4人を確認する。
「岩井! 早坂! いる奴返事しろ!」
「いるよ! 早坂います! 大丈夫すみれ?」
「え゛ほッ、み、ず飲んだ、けほんっ!」
「ハァ、ハァ、私は平気よ…」
「瑪瑙は!?」
「後ろにいるわ」
暗く静寂に満ちた中央廃サイロ。闇が遠近感を奪うが
ホール内はかなり広いようだ。およそ10メートルはある
天上を見て二階堂は急に可笑しくなってしまった。
「なんだよ、新らしく出来たテーマパークか?」
瑪瑙が顔にまとわる髪を避けて不機嫌に唸る。
「シートベルトの無いアトラクションなんか願い下げよ」
水は早坂の腰より少し上まである。純粋に海水だけでは
ないのだろうか、水質は気が付かないほど塩気が薄い。
5人はゆっくり足元を確認しながら岸辺へ向かった。
闇に目が慣れてくると、天井の穴が拝める。
「驚いたよ、いきなり床が抜けるなんて…」
「早坂さん! 何を呑気な…ヘタしたら大怪我ですよ!」
「ごめん岩井さん、でもみんな無事で何よりだね」
ふと気が付く。上がっている丘の傾斜が不自然なこと。
「何…これ」
重厚な鋼鉄に貼り付いたフジツボ。曲線を画く黒い輪郭。
5人が乗っているのは、ほとんど沈み横たわった船だ。
「オイルタンカー?」
「タンカーがこんな小さいわけないでしょう。
おそらく貨物船か何かよ」
瑪瑙は船底がめり込んだ内壁に寄り掛かって首筋を拭う。
そこで西川が何かを見つけた。アルファベットだ。
「葵ちゃん、この船何か書いてあるよ」
「インカロセ…あ、ローズか」
「インカ? インカ帝国とかの?」
早坂と瑪瑙の会話に岩井は
「15世紀から始まる南米大陸で栄えた帝国でしょ?
たぶんここに書いてあるのは、この船の名前だから
たいして関係ないと思うけど…」
と顎を掻く。西川はびっくりして言う。
「これって15世紀の船なの!?」
「そんなわけないでしょ、100年も経ってないわよ」
瑪瑙は、インカローズを押しつぶすように崩れた
建造物の隔壁や鉄骨を見て呟いた。外は見えない。
海水の薄まっているところを見ると、雨水が流れ込んだのか、
あるいは別の用途で使用されるはずの真水だったのか、
いずれにしろここに船があること事態不自然だ。
「突っ込んだのかもしれないわね…」
「何だよ、突っ込んだって…」
二階堂が怪訝な表情を浮かべる。
「このインカローズがよ。おそらく航海の最中何らかの
アクシデントが起きて操縦不能に陥り、この石油を
発掘してる基地に激突…職員は全員避難した」
瑪瑙は自分で説明しながら違和感を感じていた。
「(じゃあ上の荒れようは何? この追突事故を隠すため
というより、もっと他のトラブルが発生して…)」
そもそもなぜ隠さねばならないのか。合点がいかない。
「とにかく上がろうぜ、帰り道が分からなくなる」
二階堂は岩井の手を引きながら突き破られた壁から覗く
廊下を目指した。ずぶ濡れの服が重く貼り付いて気持ち悪い。
瑪瑙は嫌な汗もかいていた。もしかしたら、追突したことが
隠蔽すべきトラブルなのではなく、追突したことによって
新たな別のトラブルがここへ持ち込まれたのではないか?
たとえば危険な人、あるいは物が積み荷だったのではないか?
やがて少女たちは、その身をもって味わうこととなる。
最悪に醜悪なそのトラブルを…