「お願い、置いてかないで!」
わからなかった。
岩井にはただ恐怖を感じることしか。
「助けて!」
かすれて声が出ない。失禁もしていた。
その視力の弱さが今、眼前に迫る危機に対して
鈍感にさせ、定かに捕えられない怪物の姿を、
より恐ろしい存在に増幅させている。
ヌルヌルとした太い何かが足を捕え、
下着に潜り込み、全身を締め上げる。
少女の柔肌で、その生物の温度を感じ、
躍動を感じ、吐く息を感じた。
"ヴルルルル・・・"
地の底から這い上がるような呻き声。
くぐもった視界に辛うじてとらえられた
伸縮するヒダ、並んだフシ、斑模様、
イソギンチャクのような吸盤のビッシリ付いた触手…
それは、巨大でおぞましい、絶望のカタマリだった。
脆弱な布きれはすべて剥ぎ取られ、柔らかな白い肉体が、
怪物の前に捧げられる。岩井は嘔吐した。
その年最後の雪が降った2月11日、
岩井 晶子はこの世に生を受ける。
誕生花はメリッサで、その花言葉は『同情』だった。
小学4年で既に眼鏡をかけ同時に口数が減っていき、
気が付けば誰も相手にしない根暗な優等生だ。
岩井は自分が嫌いだった。消極的で内罰思考で
そんな状態が楽で、何ひとつ進もうとしない
自分が嫌いだった。
そんな岩井に優しく話し掛けていたのが
担任教師の加藤で、最初、形式上孤立した生徒に
接する教師ごっこには付き合うまいと冷めた態度の
岩井であったが、加藤からの告白を受けて改まる。
初めての強烈な好意に打たれて、いつしか
岩井は加藤と恋仲になっていた。
将来も約束して…
凄まじい不快感。自分の中をドス黒い欲望が暴れてる。
加藤以外の雄を受け入れたことのない秘裂に、
怪物の太い生殖器がピストンし、膣襞を絡み付ける。
岩井は全身をビクッビクッと弛ませて、視点は眼球の
痙攣で何も定まらず、吐瀉物の上で跳ね上がり続けていた。
犯されている…
そう理解した瞬間、
岩井は気が振れたように泣き、叫び、暴れた。
裂けんばかりに目を開き、意味不明の言葉を絶叫する。
頭をゴツゴツと床にぶつけで額から血が滲む。
「(殺して! 私を殺して!)」
怪物の剛直が幼い花弁にめり込むと瞬間的膨張、そして…
"ドビュルルゥゥッ!!"
出された。子宮に直接。その灼熱の衝撃は全神経の感度を
頂点にまで吹き飛ばし、脳みそを真っ白に焼く。
躰中から滝の汗を流しながら白眼をむいて失神する岩井。
ぜぇぜぇとやっと呼吸しながら、まるで10wの電球に
1000wの電気をブチ込んだように砕け散った意識。
もはや指一本動かすことが出来ない。ひたすらビくつくだけ。
見るに耐えない悲惨な姿を曝しながら、
生まれながらにして『同情』を背負った女の口からは
「あ゛ー う ー ー 」
という物狂いのような駄音をだらしなく漏らし、
その顔は、まるで笑っているかのようだった。