「階段はすべて塞がってる、私たちが落ちた
穴まで這い上がることも出来ない。つまり、
救助が来るまでここに閉じ込められたわけね」
瑪瑙は爪を噛んで置かれている状況を再確認した。
「食料と怪物、まずはこの問題を何とかしないとね」
と早坂は岩井の即席の墓標に立てられた
鉄パイプとアルミ材の十字架を横目に提起する。
「あの怪獣…食べられるかな」
今の西川の発言は皆一様に無視して話を進めた。
結論、まずは移動可能な領域の探索と決まる。
生きている通路は思いの他少なく、湖のある
フロアとその上の二階層に限定。尤も、
湖を泳いで他の道を探せれば別かもしれないが、
誰にもとてもそんな度胸はなかった。
それでも決定的収穫が二つある。
ひとつは厨房だ。正確には上の階にあった厨房が
落ちて来た状態で、残念ながら口にできそうな食料は
見つからなかったが、ナタと包丁という武器を入手し、
ナタは二階堂が、包丁は長めの棚に使われていた
補助レール先端に括られ早坂が携帯した。
いまひとつはサンプルオイルと表示されたドラム缶で、
中身の入ったものが六つ。ここが石油の
パイプラインであることとなにか関係するのだろうか。
とにかく4人は火を手に入れることが出来たのだ。
再び岩井の墓標に集結した少女たちは疲れを
通り越して少しばかりハイになっていた。
「で、どうする?」
二階堂が腰に両手を付いて伺う。モデルらしい
格好の付いた立ちポーズだ。早坂が答える。
「今あるもので出来ることをするしかないよね」
「虫を撃退しながら待つのか、ここで」
ナタを見つめる二階堂はどこか悔しそうだ。
「湖が渡れれば他の可能性もあるかも…」
「…葵ちゃん、私、泳げないよ」
早坂が頭を撫でると西川は猫のように目を細める。
「…提案があるわ…私自身気乗りしないんだけど」
瑪瑙が下唇に指をあてながら喋り始めた。
「ネックは怪物でしょ。あいつらがいるために
行動範囲が規制されている。ここで迎撃を
続けるにしろ戦闘に必要な体力が残存して
あることが前提条件よ。それこそ空腹と疲労に
苛まれて尚、現れ続けるモンスターを相手に
しながら救助を待つってのは些かシビアね」
「つまり?」
「まだ私たちに余力の残った今、奴等をまとめて
一層できれば、あるいは生き残る可能性が
飛躍するかも…ってこと」
「そんなこと出来るのかよ、瑪瑙」
「私の推察では、怪物は湖から来る。もっと
言うならあの船の中から来るのよ」
3人は息を飲んで瑪瑙の言葉の続きを待った。
「インカローズを焼き払うわ」