これは賭だ。
あの船の中が巣である保証はなかったし、また
仮にそうだとしても、果して炎がどこまで
有効なのかも疑問である。何匹いるかも不明。
大体怪物に戦闘能力がないというのも
根拠は希薄、まるで断定はできない。
摂行と違う強力な兵隊が潜伏している
可能性は十分ありうるのだから。
いずれにしろ4人の少女はこの賭に
勝つべくして行動を開始した。
まずドラム缶を運び、蓋を開け
インカローズのほうへと流す。
続いて逃げ道の確保だが、
これには都合の良い通路がある。
上から下へ下ろす鉄扉が途中に設けられ、
内部ワイヤーが切れているのか、
そこだけは4人がかりで手動開閉できた。
一時的につっかえ棒で支え、もし炎の
勢いが予想以上に激しい場合は、
このドア向こうへ逃げ、つっかえ棒を取り、
しばらくやりすごす。怪物にドアを
持ち上げる知恵があるならつっかえ棒を
逆にして開けさせないようにする。
幸いにして、すべての段取りが整うまで
怪物の妨害を受けることはなかった。
水面に滲む虹色の油分は辺り一帯に
強く臭いを放っている。
「燃えるのか?」
今さら二階堂が怪訝に嘯いた。
「さぁ…」
瑪瑙は無責任に答え、薄ぼやけた電球の
鎖をふたつ折りにして振り回し始めた。
「いくわよ」
湖に垂れて行く鉄の丘のオイルライン目掛け、
獲物に喰らい付くコブラのように一閃。
ポンッ! と軽い破裂音とともに火花が散り、
儚い火の粉が着火点に舞った瞬間。
4人の瞳が紅に染まった。