16.二階堂 梓

何をやってるんだろう?
二階堂は、手も足も痺れていたし、
暗闇で視界も殺され、異臭で鼻が曲がりそうだった。
水面から上がっても、そこは潰れたフロアに
生じた僅かな隙間。襲いくる怪物の腹目掛け
ナタを振り込む。ペニスのすぐ横に突き刺さり、
放たれることのなかった寄生虫たちが、
ビチビチと飛び出す。
二階堂の形の良い胸の膨らみに跳ね付き、
しばらく足掻くと、そこが子宮でないことを嘆き、
母の養分を受けることなく、それらは息絶えていった。
水中に落ちた子供達も一様にボウフラのような
暴れ様をしていたが、やはり長くは持たない。
父親本体はナタの突き刺さったまま沈み、
その肉の障害物が退くと、手ぐすねを引いていた
新しい怪虫がプロポーズにやってくる。
咳き込みながら大きく息をして穴の奥を見る。
…光?
光が見える。
二階堂は渾身の力を奮い、光に向かって突き進んだ。
幸いにして穴は小さく。彼等も容易には追って来れない。
泥だらけになりながら最後の力で這い進む。
あと10メートル、8メートル、あと少し…
ぎゅむ!
あと僅か6メートルの所で希望は断たれた。
捕まってしまったのだ。絶望に…
「…あ……」
肥満した怪虫の巨体は重く
ずっしりと二階堂を俯けに押さえ込み
おしりだけ浮いた恥辱的ポーズで震える。
「やめろ…やめろぉ…」
もはやその姿に勇敢さは感じられない。
涙でくぐもった視界の先へ哀れに手を伸ばした。
怪物の股間から伸び出た太く濡れた肉棒が、
ぬるりと少女の下腹部を撫で、
嫌悪のあまり思わず声が上がる。
似合わない可愛らしい悲鳴だ。
「……やめ…」
づぷんっ!
あまりにも唐突にソレは侵入した。
長く成長した生殖管は17才の女の穴には
大それた代物で、驚くほど深く埋まっている。
「ひんっ…ひんっ…ひんっ…」
虫のぶよついた肉が、純白の尻を淫媚に打鳴らし、
奇怪な動作で腰をひねるたびに、亀頭や血管などの
突起部が膣と子宮の肉壁に取っ掛かってうねった。
「あががっ! くぅぁぁぁぁああ!」
モデル志望の美脚がピストン運動の激しさのあまり、
跳ね上がり空を蹴る。背筋に経験のない悪寒が走る。
二階堂の上半身は暴れ回る下半身と対照的に、
蹲り、額を床に擦り付け、歯を食いしばりながら
耐え続けている。そして間もなくして…
ぐびゅるんっ!
と激しくペニスが波打って強欲を吐き出した。
細いウエスト、そのへその少し下。
二階堂の意思と関係なく、震えている。
「ぁ…ぁぁぁぁ…ぁぁぁ…」
出されたのは、明らかに生き物だった。
ニュルニュルと身をよじって子宮に居座ったソレは、
さっそく居心地の良い新居に満足したのか、
母体の栄養を啜り始め、二階堂も直ぐ察知する。
性器はまだ繋がったまま痙攣を続け、
肉体はお互いに脱力し、母の口はだらしなく
よだれを垂れ流しながら虚ろな瞳でぜぇぜぇ呼吸。
「(動いてる…おなかの中で…)」
何がいるのか分からない。
確かなのは非人間である何か。
「ひっく…畜生…ちくしょうぅ…」
しっかり自分の子孫を種付けた実感に酔っていたのか、
警戒を怠った怪虫に二階堂が牙を向いた。
凄まじい断末魔の叫び。怪虫は食いちぎられた
咽の下から血肉を吐き出して暴れ狂った。
やっとのことで怪虫から分離した二階堂は、
父親の死に共鳴してのた打ち回る幼虫を感じ、
泣きながら歯を食いしばった。
「殺してやる…瑪瑙! 殺してやるぞ!!」
二階堂はついに光に辿り着いた。

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