幼虫は鳴いていた。
それはもはや悲鳴だった。
母親を求めてドラム缶をよじ登ろうとしている。
しかし上手くいかずボロリと落ちる。
ハァハァと息を乱し、自分の中に芽生えた
『母親』と葛藤する最後の理性。
二階堂の心は切なさで押しつぶされそうだ。
乳首は勃ちっぱなし、子宮はキュンと疼いて、
頭の芯が灼い。二階堂は…堪らなかった。
あのグロテスクなモンスターの子を、
抱き締めたくてしょうがなかった。
地べたに投げたことで胸が張り裂けそうになり、
自らの乳を与えながら撫でてやりたかった。
「うわぁぁぁぁぁぁっ!」
二階堂は頭を抱えて歯をくいしばり
必死に抵抗する。そしてカッと眼を見開くと
発煙筒に火を灯し幼虫に投げ付ける。
それが幼虫に当たることはなかったが、近くで
煙りを炊き、子がミーミーと泣きながら丸くなって
母親に助けを求めている姿は直視できなかった。
「やめろ! おまえはわたしの子じゃねぇっ!」
ガクガクとわなないて仰いだ。
補給機の弟が脳裏に過る。
小さくて、非力で、今にも消えてしまいそうな…
「なんでだよ! いったい何のために生まれるんだ!
おまえは…おまえらは…」
二階堂は落胆した。
「生まれるためだけに生まれたのか?」
命に意味なんてなかった。
それでも必死に理由を探した。
無意味な命なんかないと、きっと生まれてくる
すべての生命には役割があるのだと。
だが違った。
奇跡や神秘なんてない。そこにあるのは
単なる生産のシステムだけだ。
壁が崩れ、ここへ来た時通った穴が虚無の闇と化し、
ざわざわと忌わしい喧噪をたたえている。
「よう…きたな兄弟」
二階堂はニヤニヤと笑いながら、闇から次々と
這い出す怪虫の群れを眺めた。その数数十匹。
「ほら、犯したいんだろ、わたしのことを…」
白くしなやかな両の足を開くと、その中心には
紅潮した秘裂が彼等を甘い香りで誘惑した。
「来いよゲテモン、ここに入れてみな…」
大群は襲い掛かるようにに二階堂ににじり寄って
醜悪な昆虫の顔を伸ばす。
二階堂のソコに凶暴な巨根がふれた瞬間、
バシュッ!と音を発て発煙筒を吹かした。
「悪いね、わたしは人間なんだ」
最後に二階堂が出した答えは、ひょっとしたら
自暴自棄の末の逃避だったのかもしれない。
それでも刹那的にであれ納得のいく結果だった。
発煙筒をドラム缶に突っ込んだ一瞬の閃光の中、
二階堂はフラッシュライトを浴びていた。
気が付けばそこはファッションショーのステージだった。
そうだ、二階堂はモデルになって、
夢にみた舞台にたっていた。