「!」
足元が崩れ前のめりに倒れ込む瑪瑙。
眼下に広がる荒波の向こう、救命ボートは揺られている。
「ぐっ」
違和感。ここまできて…ついに瑪瑙の左脚は
一匹の怪虫に掴まれてしまった。
「はなせ! はなしなさいウジムシ!」
必死に残った右で蹴りつけるが、それで引く相手ではない。
でかい…よく見れば内蔵を引きずりオレンジと紫色の臓物を
ぶくぶくいわせながら這い進む姿に、母親を探す戦場の兵士にも
被った哀れさと無気味な凄惨さをもって迫る。
「私は…私は違う! 違うのよ!」
咄嗟に瑪瑙の口がら突いて出た『違う』という台詞。
はたして西川との比較であったのか、或いは他の犠牲者との
比較であったのか。実のところそれより遥かに根源的部分で
否定した意味合いであったようにも思われた。
怪虫が吠える。まさに母を呼ぶがごとき悲鳴だ。
「や、やめ、、」
垂れ流した内蔵とともに細く色白な身の上にのしかかって、
生死の境、これでもかと臨界まで膨張したソレは、
非力な少女の力をあっさりと舐って挿入された。
「くぅあああああっ!」
自分の体重の何倍かが、股の間に重心を載せて激しく上下し、
子宮を軽く貫くほど長く伸びきった根の先からは、
すでに生殖虫に変態できなかった『なりそこない』が
何匹かだらしなく漏れているようだ。
「ひっ、はな、、せ!」
瑪瑙は渾身の力を込めて抗い、噛み付き、挟み込んだ
足の踵で蹴りながら、内蔵を握り潰し引きちぎった。
ぬめる体液と絶叫が怪虫の中から爆出し、
同時に瑪瑙の子宮に幼虫たちが力一杯ほとばしる。
「アーーーーーーー!!!」
瑪瑙はイッてしまった。
寄生されて絶頂させられたのだ。
スローモーションで落下してくる巨大な天井壁。
音は消え、自らの鼓動と胎内の躍動を確かめながら
瑪瑙は深呼吸をした。
涙が止まらなかった。
海水が怒濤のように流れ込み、建造物のすべては
深い闇に飲まれていく。
目前に迫った天井壁を眺めながら瑪瑙は最後にこう呟いた。
「ママ…ごめんなさい…」