3.肥満したイモムシ

本当は気がふれてしまったほうが楽なのだ、
しかし私にはそれすら許してくれない。
沼が減ってきたころ珍しく澄んだ湧き水をみつけた私は
その水で咽を潤し、汚れた体を洗った。
水の流れを目で追ううち、急に内ももの暖かいヌメりが恐ろしくなった。
「お願い、出てって、、、出てってよぅ、、、」
思い出したのだ。前の生理からもうすぐ1週間くらいになる。
明日あたりは一番の危険日なのだ。
全身を洗いながらこの小さなおなかを指で押して精液を外へ出そうとするが、
ある程度流れると、もうそれ以上出てはこない。
それでも自分の中心に感じる違和感は消えてくれなかった。
ヌルヌルと象牙色のこごりを含んだ種子が水中に漂う。
「もうやだ・・・お家に帰して・・・」
近場にあった大木に腰をおろし、足下に畳まれたズタズタの服を眺める。
・・・私とおんなじだ・・・
泣いてるはずだが涙は出なかった。
"ボトッ・・"
突然目の前に何か塊が落ちて、驚いた私は胸を押さえながら恐る恐る
それを確認しようと焦点を定めていく。カボチャくらいの丸くて白い・・・
"ウギ、、"
「ひっ!」
鳴いた。それはまるで・・・
焦って身を引き、後ろの木に背をぶつけた。すると、
"ボトボトボトッ・・・!"
鳴き声を発したそれと同じ物が何十匹と上から降ってきたのだ。
イモムシ、蚕やカブト虫の幼虫にも見えるが大きさは猫くらいあり、
見上げれば大木の上に数えきれないほどはりつき蠢いていた。
ブヨブヨと肥満した白い体を波打たせながらこちらに進んでくる。
「い、、いやぁぁぁっ!」
わたしの頭や肩、背中、乳房、腹、おしり、腿などにへばりついた彼らは
いっせいに橙色の頭部をペニスのようにニョッキリとそそりたたせ始め・・・
"ウギ、、ウギ、、ウギ、、"
その虫酸の走る奇声と異臭に慌てふためきバランスを崩した身体が、
イモムシの上へ倒れ込む。グニャリと潰れて黄色い汁が跳ね上がった。
"ウギィッ!"
「ひ、ひ、ひ、ひいぃぃっ!」
混乱し暴れてイモムシの中をのたうつ。引き剥がしては踏みつぶし、
ばらばらと上から落ちてくる肉の雨を振払いながら無我夢中で走り出す。
口に入った芋虫の肉片を飲み込む。爪の間にも入り込んでいる。
でたらめに叫びながら足がなくなりそうなくらい走りつづけて、
心身ともに精魂尽き果て立ち止まったころには夜の闇が辺りを支配していた。

「パパ、、、早く助けてよ、、、」
パパとママに会える。そう聞かされてヘリに乗ったのだ。
たったひとりこの島に置き去りにされて・・・こんなのひどすぎる・・・
「、、、、、、、、、、」
ふと思い出した。あの男が言っていたこと。
"きみのお父さんがアブソロムを作ったんだ"
アブソロム・・・この島? こんな地獄をパパが? 嘘に決まってる!
パパは会社に、S.E.L.に騙されて、それで行方不明になったんだ。
許せない、ヘリの男、近藤と名乗ったあの男がパパもママも私もさらって・・・
こんな残酷な世界を作ったんだ! ここから脱出したら、パパもママも救い出して、
S.E.L.も近藤も、私が必ず後悔させてやる!

Toppage