14.軟体動物

澄んだ泉に腰まで浸りながら、ほのかは歌を歌っていた。
ここへ連れて来られる前に、友達の綾菜に借りたCDの曲だ。
ピアノとフォークギターのどこか寂し気な旋律が、とても好きだった。
〜ひろがる空気のうしろに暮らした
 それぞれの想い 僕たちの轍 泣いたりしない
 光りと影のおりなす世界にこだまする「いいでしょ」
 あぁ 戻れない記憶の裏側をみつけた みつけた
 36度7分の微熱なら いいでしょ ねぇいいでしょう?
いままでただ怯えるだけの子供だった彼女。少しずつ少しずつ
この世界を受け入れて来た。まだどこか無邪気であどけなさを残し、
繊細で硝子細工のようなその瞳は、まだ人間社会の搾取と卑劣を見たことがない。
無菌状態で育った汚れを知らない心。肩の力を抜いて、落ち着きを取り戻す。
あれほどの窮地を通って形崩れのない整ったプロポーション。
小振りながらふんわりと柔らかな乳房。謙虚な曲線を描くヒップライン。
スラッとしたすべやかな白い足。髪も少しだけ伸びた。そう、
ほのかは痛いほど美しい女になっていた。

悪臭がする。そして私はこの臭いを知っている。精液の臭いだ。
しかしこれほど強烈にキツい精液臭は始めてだ。ずるりずるりと
近付いて来る・・・それは一見してワニのようにも見えたが、違う。
上半身がアオリイカのような形をし、骨の無い動物のようだ。
体長2メートルはあるだろうか。全身茶緑色でブヨブヨの吸盤がある。
彼が近付くとより一層臭いはひどくなった。ぶっくりと太った睾丸。
威きり立つ生殖器官の先端からはドロドロと、山吹色の精子という
何十億もの害虫が我慢できずに溢れだしている。溜まっている。
それも尋常ではない量だ。嫌悪感と恐怖感に私の足はガクガクと
震えていたが、同時に胸の鼓動は高鳴り、つぼみを蜜で濡らす。
この誘惑に抗うことなど、もはや私に出来はしなかった。
そこに座り込み両足を開くと、彼はソコへ下半身を埋めてくる。
ピタンッ!ピタンッ!と私の内ももを打つ彼の腰肉の音。
言葉では表現できないあの快感が、肉棒を打ち込まれるたび突き抜けていく。
ぶるぶると身震いしながら軟体動物は胴体を仰け反らせた。
これはよく彼等がイくときに見せる動作だが、射精された感覚はない。
ハァハァと頬を赤らめながら涙で滲む視界を凝らして、私と彼との
結合部を確認する。来る・・・彼ののっぺりと長い生殖器官の中を
押し出されるように固まりが向かってくる。彼の肉の道が膨らんで
赤黒い物の中を通るそれのせいで薄くなっていた。そして固まりは
膣に飲み込まれた生殖官を通り抜けて出口へ近付く。私の白いお腹は
膣口からおへその上までもっこりと波打って、中を固まりが
通過しているのが見てとれた。そして出口の子宮中へ・・・
ゴポリッ!
とそれは飛び出す。私は男の塊を女の卵に直に受け入れた快感で
「ひゃあっ!」
と変な声を上げてよがり、ビックン!ビックン!とイッてしまった。
あまりにも濃密な精液のホットジャム。長期間貯えられた精子たちは、
液体ではなく、ねっとりと絡んだ粘液の固まりとなって精巣に沈澱し続けていた。
軟体動物は射精に痛みを伴っているのか、もしくは始めて知る絶頂に
狂喜してか、震えながら奇声を上げ、まるで泣いているように感じられる。
その後も私達は繋がり合ったまま3回、精子の固まりをプレゼントされ続けた。
終わって戒めを引き抜かれても、いつものように夥しい白濁が
流れ出すことはなく、子宮内にべっとりと塗り込められた臭いの素が
あのむせ返るようなキツい精子臭を辺りに振り撒いていた。

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