22.我が子(その1)

薄暗く狭い土の横穴の中、
僅かに差し込む弱々しい光。
なんでこんなことになってしまったのだろう。
閉じ込められて半日くらいが過ぎていた。
雨宿りのために一時的に入ったのだが、突然の土砂崩れ。
固い土の塊が出入口をふさいでしまったのだ。
食料はなく、雨水が溜まっているだけ。
「うぁ、うぶ!」
中で動いた。暴れたと言ってもいい。
激しいつわりでうずくまり、水溜りを温かくヌメらせていく。
大きく膨らんだおなかを撫でた。まだドキドキ胸が高鳴る。
妊娠、2度目の子供。
ついに再びこの子宮に幼虫をはらんだのだ。
私は震えて腰を後ろへ突き出し、
お腹を見ながら四つん這いになった。
水風船のようにぶるぶると動いているのが分かる。
子供が目を覚ましたのだ。
いや、子供たちというべきか。
体の中枢に感じた違和感。
一室でからまり、うごめいた2つの意志。
2匹いる。 幼虫は双子なのだ。
不安と困惑。少女の肢体は、二匹の食いしん坊に
栄養を吸われて、さらに白く細くなっていた。
こんな状況で双児の出産に耐えられるだろうか。
横に寝そべるとすぐ激しい胎動が始まった。
「うぐ、くあぁっ!」
私は押しよせる刺激をぐっとこらえておなかに手を置く。
破水しっぱなしの膣口からは羊水がビュルッと流れ、
子宮の中で2匹の子たちが絡んでのたうち、
そのたびにつわりと頭痛、全身の痙攣が打ち寄せる。
「はぁ…はぁ…ダメ…いい子だから…仲良くして…」
唾液にぬめった口を拭って、一息ついた。
二匹の幼虫はまた母の栄養をすすり始めたようだ。
成長している。
幼虫もだが、私も最近お乳が張り始め、
この乳房からちょっぴりずつ
ミルクが出るようになっていた。
これも淫獣に毎日のように揉みしだかれたおかげだろうか。
ふと、口から子守唄がついて出る。
昔、母から聞いた優しい唄…
「…愛してるよ…」
心地よい詩線が火照った体を撫でる。

あれからどのくらい経ったのだろう。
このおなかの大きさならもう出産は近い。
私の非力では土塊を押し出す力はないし、
このまま閉じ込められ続ければ、長くは持たないだろう。
羊水と唾液と母乳が垂れ混ざった泥水を啜りながら
涙に滲む視界。胃が圧迫されているからか食欲はなかった。
仰向けにも俯けにもなれず、
ただ冬を越す蛹のようにうずくまるだけ。
ぶつぶつ独り言を呟く回数も増えた。
私は再び四つん這いに起き上がって
もう一度土塊をグッと押してみる。
その時。
ドスッ
水で足が滑り転んでしまった。
しかも、おなかから!
「ぎゃうぅ、あっ、ひっ、ご…ごめ…うあああっ!!」
急な衝撃、私の肉壁に締め付けられた2匹が驚き抗う。
幼虫の触手が絡み合い、子宮壁に身をよじり付いて、
激しくのた打ち回りながら、ギィギィと嘶き、
その二匹の狂ったような奇声が腹の中から聞こえる。
「し…死ぬ、死んじゃうぅっ!!」
秘部からは羊水を噴出し、女の体は悲鳴を上げた。
「おねがい…あ…ふたりとも…ママをいじめないでぇ…」
消え入りそうな声で優しく優しくおなかをさすり子守唄を口ずさむ。
「ね…むれぇ…ねむ…れ…わがぁっこぉ…よ…」
やがて胎児たちは時折、ぬるるっと動きはしたが、
だいぶ落ち着いてきた。
雨はまだ降っている。
また声が聞こえた。
おなかの中からだ
ミギィ…ギギ…
苦痛は伴ったが、何より幼虫達が元気な証。
二匹はよほど私の子宮が居心地良いらしく、
まだ顔を見せてくれなかった。ところが、
それは一瞬の思い過ごしにすぎなかったことをすぐに知る。
これは出産前兆の第一波。
本当の苦痛はこれからだった。

ビュクンッ!
ついに
ビュルビクンッ!
その時はやってきた。
五回目の波、衰弱し、混濁する意識の中、
苦痛だけは色濃く認識している。
長い時間、じっくり母体を疲労させてきた幼虫は
外世界を目指しての行動に出た。
柔らかなおなかが目に見えて、中を移動する
幼虫の形にゆっくり波打っている。
ビクビクビクッ!!
「きゃああああっ!!」
かつてないほどの大きな衝撃が全身を走った。
私は裂けんばかりに目をむいて
ガクガクと体を弓なりにのけぞらせながら戦慄く。
二匹が我先にと膣内をじゅるじゅる這い進んでいるのだ。
ほとばしる羊水と共に妖児の頭が覗いた。
ズビュルッ!
「ーーーーーーーッ!!!」
オギャアアアアッ!!
まずは一匹目、続いて二匹目が姿を現す。
あろうことか、私の肉体は
その出産のショックでイッてしまったのだ。
「ハァ…ハァ…ハァ……ふぅー…ふぅー…」
私はピクピクと痙攣する身体を大の字にして
達成感に包まれていた。
ムギ、ムギ…
2匹の幼虫はゴムを握りつぶしたような鳴き声を
発しながら母親の美しく白い肌の上を
ぬるぬると這って上がる。
それは内腿から腹の上、そして乳房へと移動し、
乳首に吸い付いた。 ちゅうちゅうとそれぞれが左右の
おっぱいを必死に飲む幼虫。
その姿はまさに肉のナメクジだった。
ぬるついた我が子の表面が入口から差し込む細い光に
てらてら光り、エラや、やわらかなイボイボが
並んでいるのがわかる。目も鼻も耳も…何もない平たい頭
ひくひくと浮き出した血管、母の身体に密着している内側は
オレンジ色の内臓むき出しでびくびく動いていた。
大きさは25cm×15cm、それを優しく少女の手が愛でる。
「こんにちは…赤ちゃん」
暖かい笑顔で、おっぱいに食いつく
子供達を眺め、私は至福のため息をついた。

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