Pandora (前編)

私は泉で身を清めると、
そのほとりに集まる妖獣の群れを流し見た。
艶帯びた視線に堪えることが出来ず数匹が射精する。
私の名は鳴沢ほのか。この孤島アブソロムの女王だ。
私の子供達は従順で、母親の命令にはつとに服従した。
出産を終えて空っぽになった腹をさすり呟く…
「この肉体の所有者が私だけって…やっぱり寂しいな」
泉から上がると子供達が道を開け、私と繋がりたくて
寄ってくる血縁のない淫獣たちを食い止め、喰い殺していた。
城へ戻り、再び近親相姦の宴に酔いしれようと
二三歩足を進めて、ふと立ち止まる…
「…あの穴…」
と独り言。思い出したのだ。あまりにも危険な場所。
すべての動物が恐れるであろう根源的な…過ちの世界。
ぞくん!
思わず戦慄した。心臓が絞られるような刺痛。
そう、あれはイグアナたちから逃れてしばらくのこと。
深い樹海の奥に、その穴は存在した。
グロテスクな植物たちに覆われ
入り口の広さは車2台分くらいだろうか。
その縦穴を覗くと、肉の入り口が躍動していた。
そのとき、背後から何か来るのを感じ取った私は
すぐに木陰に隠れる。森の奥から現れたのは
脳みそに何本もの足が生えた妖獣で、その手には
子供を抱いている。よく見ると脳みそから
丸いキノコのような肉が涌き、骨格も曲がっている。
妖獣は子供を穴に放り込む。
肉の入り口がジュルジュル音を立てて子供を飲んで、
一瞬開いたその口の奥から、かつて聞いたこともない
嘆きと絶望が溢れ出し…
それ以上はとても耐えられず走り出していた。
つまりあの穴は、この島ですら生きていくことのできない、
最低最悪の奇形児が捨てられるゴミ箱だったのだ。
立ちどまって思わず胃の中のものを吐き出す。
涙が止まらない。全身震えてその場にへたり込む。
捨てられた堕児たちは穴の中で生きていた…
凄まじい恐怖に、私は気が振れそうになっていた。
以来そこには決して近付かなかったのだが…
ぞくぞく!
再び悪寒が走る。子宮が疼いて蕾が蜜を垂らす。
求めている…私の肉体が、より醜悪で劣悪な遺伝子を。
絶望を孕みたがっている。
想像を絶する奇形を欲している。
久しく忘れていた死にたくなるほどの嫌悪感…
あまりにも危険すぎる異次元。
感じすぎてイきそうになった。
ショック死するほどの凄まじい存在の製造…
「アハハ…私、最低のマゾヒストなんだ…」
白く長いこの足が、ふらふらと樹海へいざなわれる。
傷付きたかった。悲しみたくて、苦しみたかった。
自分の愚かさを呪って、泣き叫びたかった。
それらがすべて、例えようのない快楽だった。

私はとっくに狂ってる。狂いきっている。
人を殺したり自殺したりするより罪深いかもしれない。
生命の神秘を弄び、子宮をまるでゴミ箱扱い。
子種も苗床も快楽の道具としか考えていないのかもしれない。
あの森深く、生暖かい霧の先に、ソレは健在だった。
躍動する肉の入り口はキュッと閉ってブクブク泡を噴いてる。
子供たちは置いてきた。ハァハァと息が乱れる。
奈落の底のさらに底が、今、ここにあった。
念入りに洗い清めた肢体はほくろひとつなく滑らかで、
流れる髪は艶を帯び、白い肌は透き通るようだ。
出産から一週間、射精を受け入れなかった私の子宮は
寂しさのあまりキュンッと震え、毎日が危険日の卵管には
おそらく今までにないほどの卵子が大量に生成され、
一度に何匹でも異常妊娠できるように準備を整えている。
スッと穴の前に立った私は、目をつむり万歳したまま
覚悟など考えもせず穴の中心へ飛び下りた。
づにゅる!
勢いで万歳の両肘まで肉ヒダに飲み込まれた私の躰は
ゆっくりと深く飲み込まれていく。
まるで食虫植物。ヒダは下を向いて並び、一度捕まったら
もう上へ上がることはできない。奇形を見張る肉の門番だ。
やがて足が空間に飛び出し、腰を抜けると同時に
づるん!と全身が空間へと堕ちた。
期待と恐怖で恐る目を開けると、そこは願いどおりの
地獄だった。…生き物の絶叫。
それも生きる絶望と死ぬ苦痛にかられた悲鳴のこだま。
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!! イィィィッ!イィィィィッ!
びちびちびち! あ゛あ゛あ゛ぁぁぁ ヒィィィ!!!
床、天井、壁、そのすべてが肉で出来たグロテスクなホールは
赤黒く変色し、臓器のようなカタマリがぶら下がり、
デタラメな凹凸で形成されている。
思わず耳をふさいで蹲ってしまった。こんなに恐ろしい声を
聞いたことはない。脳に響く奇声は心底不快で、
姿を見ずともこの声を聞いているだけで、気が振れそうだ。
ガタガタ震える私のおしりにヌルついた感触がスリスリしてる。
驚いて飛びのくと、そこにはおちんちんに細長い足が
数本生えたような丁度ネコくらいの生き物がいた。
知性も何も感じないそれは、よく見れば辺り一体無数にいる。
私は震えながらホールの奥へと進んでいく。
素足の裏に感じる肉と血管の触感に身がおぞけ、
鍾乳洞よりボコボコと変型した障害物は異質を極めていた。
そのいたる窪みなどにハマッた不具や奇形たちは
そのまま身体を歪に適応させ、中には床や壁、天井などと
同化している者も多く、一部では一ケ所から数十匹の
奇形が同化して沸き上がるように生えてるところもある。
奇形以外にも、どうして繁殖したのか
黒い体にオレンジ色の斑点が付いた毒々しいヒルのような巨虫。
これが百匹近く壁一面にびっしり貼り付いて、奇形ごと
肉世界をかじっているようだった。
不具奇形の敵は他にもいて、不幸にも同化し動けない者の
全身にイボイボの並んだ大型のナメクジが大量に付着していたり、
真っ白なミミズのようなモノがニョロニョロ噛み付いてる者もいる。
肉と精液の甘い悪臭が噎せ返るほど濃密で、汗が止まらない。
タコのように内蔵だけが這って動いていたり、精液でぬめった
床はいたるところに小さな汚濁の水たまりを作って、
そこに奇怪な虫を涌かせる。
そこでは誰もが狂い、共食いし、肉塊と化していた。
息すらまともに出来ず、耳を塞いでも聞こえる奇声、そして
想像を絶した嫌悪感の渦巻きが小さな私の躰を苛んだ。
私の顔は泣きながら引きつって、
たぶん笑っているように見えたかもしれない。
その時、変化に気が付いた。
奇形が集って『何か』に各々思いを馳せている光景。
それは崇めているようでもある。
助けを求めているのだろうか、それとも、そう見えるだけで、
実はまったく関係ないのか、とにかく一見祭壇のような
肉の台に置かれた『何か』は、私を釘付けにする十分な
魅力を持って佇んでいたのだ。
明らかにここでは不釣り合いな人工物。
それはコーヒー豆のビンくらいの大きさしかない
円筒形の硝子ケースで、中には何も入っていないようだ。
いや、濃い緑色は表面質のカラーじゃない。
半透明で気泡のようなものが浮いてるところを
見ると、何やら液体が入っているようだ。
もちろん、あの施設から持ち出されたものなのは明白で、
光りを受けてエメラルドのように輝くそれに思わず
「綺麗かも…」
と漏らし近付こうとする。
この島に来て始めての感覚かもしれなかった。
暴走と反乱の最中、持ち出されてしまったのかもしれない。
突然、私という侵入者が、彼等の崇拝対象に接近したため、
一斉に奇声を荒げて威嚇を始めた。
その怒濤の攻撃感情を一身に受けて…私の信号が目覚める。
「すごい感情…私が怖いんだね?」
不具や奇形たちは哀れな身体と精神を駆使して暴れていた。
「大丈夫…今からあなたたちに、女の子のこと教えてあげる。
 みんなで童貞の卒業式だよ。私を、性欲を怖れないで…ね?」
私は恐慌とうらはらに舌なめずりをしていた。

肉の床の盛り上がりに腰を置き恥ずかしいところを広げて
言葉なんて通じないであろう彼等に、クリトリスや尿道、
始めて直視した女性器の説明を丹念に講釈した。
「でね……みんなのおちんちんをね…ここへ入れるの。
 私のことなんか気遣わず本能に任せてね…繋がって…
 おちんちんの大きい小さいも関係ない、形が変でもイイ。
 この穴はね…女の子の穴は…どんなおちんちんでも
 気持ち良くなる穴なの……だから…ほら」
耳まで真っ赤にして憂いを帯びた表情の私は、それが
本気なのか演技なの自分でもかわからない。
でも、この胸の高鳴りは本物だった。
「さぁ…いままで決して本来望むべき場所に放たれることの
 なかった精子くんたちを、いっぱいい〜っぱいちょうだい♥
 出すときはね、奥の奥に埋づめて…孕め孕め〜って念じてね。
 わたしも心から赤ちゃんデキますようにって願うから…」
不具、異常、致命的障害、物狂い、脳と身体をメチャクチャに
歪めた奇形獣たちが悲鳴を上げて巨体でビチビチ暴れてる。
「みんな勇気出して…わたしを犯して!一番乗りの子を産むよ。
 私の子宮は妊娠率100%なの、どんなに脆弱な精子も篩いに
 かけることのない、何者であろうと絶対に受精する子宮なの。
 私の排卵周期は凄く短くてね…たぶん卵子もひとつじゃない。
 学校の保健体育の時間にね、習ったのと違う躰になってるの。
 子宮も貫くおちんちんは射精の勢いで直接卵管まで精子を
 打ち込むでしょ? だから一瞬で妊娠するの。そしてそこに
 いる他たくさんの卵子も精子と結合してね…平気で10匹くらい
 妊娠しちゃう…。受精卵たちは急激に細胞分裂して発育しながら
 しばらく後から来る異種の再受精を受け入れ続け、あらゆる
 父親の劣悪な形状や精神異常を継承して、じっくり壊れてから
 子宮に向かって進む…その子宮ではね、内膜がフワフワに
 増殖して、優しく受精卵たちを包み込んでね…栄養を与えるの。
 これが着床。この間はたったの一日。産むことも産まれることも
 罪であるような最低最悪の悲惨を…私は…大事に…大事に…」
腰がわなないて顎がカクカクする。涙とよだれが顔を濡らし
秘部は熱い蜜の大洪水だ。もう我慢できない…意識が飛びそう!
カタマリが一匹、ついに意を決して私の眼前に辿り着く。
彼は2メートルくらいの四つ足動物で、手足の関節がデタラメに
よじれていた。息荒くよだれを垂れ、そのおちんちんは
怖いくらい血管が何本も浮き出し、今にも破裂しそうなほどの
膨張を見せる。先っちょの穴からだらだらカルピスみたいな
カウパー液を滴らせ、どうしたらいいかわからないと
いったふうに混乱してるようだった。
「いらっしゃいませ♥」
M字に開脚したままの私のおなかの上でビクつく愛しい
おちんちんを大事にそっと両手で包み、ゆっくりと
神聖な入り口へ誘導する。その始終が見えているのか
顔から顔、眼球から眼球が飛び出した彼の表情は
期待に満ちてるようで、とても嬉しい。
入る…奥に…奥に…少女の柔らかく、そして
熱くヌレた肉の包み込みが、おちんちんが深く深く
侵入するにつれ、ヒダの小刻みな痙攣が撫でる。
彼が、とろけそうなほどの熱い快感に絶叫した。
女の子の中が、生涯経験した何にも比べられないほど
気持ち良くって…涙さえ流していた。
長いおちんちんは子宮に達し、無理矢理に根元まで
みっちり埋まり込むと、私のおへそからしたのお肉が
彼の形にぽっこり膨らんでいて、それを確かめた
私は、キュッと膣に力を込めて圧迫する。
「さぁ…何も考えないで…好きに動いていいんだよ♥」
至福と興奮に震えながら、私は仰向けに寝そべった。

彼は私と合体した快感を貪って、がむしゃらに動く。
どう高率よく動けばいいのかわからない彼に
必死でしがみつきながら、悦びに反応する四肢。
亀頭のくぼみが子宮口を刺激し、歪んだ剛直が
膣の花道をかき混ぜて、内蔵が捲れ上がりそうだ。
彼は気持ち良さのあまり泣いているようで、
その無気味な姿に胸をキュンとさせる私。
「あっ! ぅあっ、あん♥ ひぃぅぅっ…」
突く度捻る度、甘く切ない嗚咽が咽を付いて出ると、彼も、
そして傍観している他の雄獣たちも、より硬直させた。
「欲しい…欲しいよぅ…お願い!」
だらしなく中に漏らされたカウパー液に気付いて、
発情した女だけが持つ神聖な器官が、それをおねだりした。
「は、孕んじゃう…この動物を!」
恐怖と絶望のカタマリにメチャクチャに犯されながら、
涙を流し、私の顔はこわばって微笑していたと思う。
「受精…受精するぅぅぅぅっ!!」
ごびゅるるっ!!
凄まじい精の直流。肉の巨根は私のおへその下で
激しく跳ね上がりながら、断続的に灼熱の内噴火を繰り返す。
全身がそのリズムに反応してびくっびくっと踊ってる。
歯が全部抜けてしまいそうな悦。ピンピンに勃ち震える乳首。
一瞬で絶頂に飛ばされた私のか細い意識の糸は、その後も
ふわふわとたゆたって…
スライドで女の子みんなが見せられた精子の拡大図。
おそらくはあれよりずっと醜悪でイビツな
姿をした精虫たちが、新鮮な私の小さな卵を
よってたかって強姦してるんだ。
腰を突き出されたまま、両足はがに股に開きっぱなし、
これ以上ないほど深く侵入、結合し合うふたつの生殖器。
彼の視線がイキつづける少女の白い肉体から舐めるように
私の瞳に移る。射精し射精されながら見つめあうふたり。
彼の狂喜が痛いほど伝わって、さらにイッてしまった。
膣の奥深くがキュンキュンと震えて、萎えていく
おちんちんから最後の一絞りまで吸い上げようとする。
恍惚の海の中、ふわふわと漂う私たちは、
上のほうで曇り空の月明かりにも似た水面の光を
ただぼーっと見つめてるような安息…
赤ん坊の泣き声が鈍く僅かに聞こえる気がした。
伝わってくる、人の子種と違い、遮二無二
今、受精していく。その受精の瞬間が分かる。
命がドロリと伝わる瞬間が、強烈に主張し始め、
幼い母親の栄養を強奪しながら、私の征服者は
この身も心も容赦なく獲得していくのだ。

じっくり射精後の余韻を味わってから、
最初の童貞卒業者が私から退いた。
だらしなく秘裂から白濁を垂れ流す大股開きの少女に
視界に入った奇形獣たちは、いきり勃たせ興奮していた。
初めて感じる雌の存在に異常を極めた姿が歪んで見える。
狂喜し、咆哮し、驚愕し、放心し、失禁する者さえいる。
「いいのよ、来て…。いつも夢精してたんでしょ?
 その臭いドロドロの液体はね…ここに入れるものなの。
 溜まった精子いっぱい出すと気持ちイイよ♥」
とっくに発狂している彼等が、一斉にひとつの目的で
動いた。おそらくこの異次元において類のないことだろう。
私の眼前にコンビニの袋ほどもある睾丸が二つ
重そうにぶら下がる。いわゆる男の子の持つ金玉とは
まるで別物。袋の中には蜜柑くらいはある精巣が
無駄にボコボコとたくさん詰まっていて、袋の付け根から
勃起したおちんちんの裏に通じる精管が波打って
痛々しくずる剥けた亀頭の先をだらしなく汚していた。
高鳴る鼓動を抑えながら、すでにみごもっているであろう
少女の躰は白痴のように開きっぱなしで、誘惑する。
恐怖のあまり声は思わず裏返ってしまう。
「出して…みんなの赤ちゃん産んであげる…
 ひとり何人でも…好きなだけ孕ませて…
 全員分産んで…全員愛してあげるから…ね?」
狂獣たちは少女の柔らかく暖かい肢体に群がった。
何度も何度も子宮を満腹にして、順番の待てない者が
おしりや咽の奥へ発射した。上を向いて外に
発射してしまった者もいる。精子は2メートルは
上がり、私は中から変型させられている自分の
おなかを摩り、変型させている張本人を確かめながら、
あの量があの勢いで中に飛び出すことを想像し、
不安と期待で吐きそうになる。乳の出るおっぱいは
母すら知らない哀れな雄獣たちのが赴くまま、
無理矢理吸われ、揉まれ、噛まれ、しゃぶられた。
彼らが私の中でイクたびに私の肉体も、前に射精された
間隔と関係なく条件反射的に絶頂しつづけ、その都度
既に受精されている卵子の中へ強引に混ざり込もうとする
最低最悪の劣悪遺伝子を感じ、その異種子宮内融合を
敏感な神経器官たちが熱く濃厚に伝えてくれる。
心が切り裂かれそうなほど痛い。これはシグナルだ。
本能が悲鳴を上げて訴えている証拠。
絶対にしてはいけないとさけんでる。
それでも私は彼等に抵抗しなかった。
どんなにおぞましい姿の怪物であろうと、
その射精は心から受け入れたし、誤って外に
発射してしまった者には、私自らが出すべき場所を
手取り足取り教え、やがて口やおしりに放出する者は
いなくなった。私のおなかは精子をこってり仕込まれ
ぷっくり膨張している。指先ひとつ動かす力もなく、
脳は灰になってしまったように考えることが出来ない。
意味不明な声が自然と口から漏れだし、それはまるで
まだ形を成していない胎児が、母の口を借りて
産声を上げているかのようだった。

童貞餓鬼たちの溜まり溜まった蟠りをすべて受け入れた私の
おなかはまるで妊娠3ヶ月を過ぎているような異様な膨張を見せ、
呼吸するのもままならないほど疲労しきってしまった。
最低に下等で醜悪な畸形のDNAを宝物のように体内にしまった
わたしは、一滴さえ無駄にしたくなくて、地面すれすれに
突起の付いた太い肉柱に腰を埋づめて膣口に栓を施すと、
ぐったり仰向けになったまま圧倒的優越感に身を委ねている。
子宮の中では宝石のようなキラキラの卵子たちと悪魔のような
精子の怪獣たちとで革命が起きているのだと思うと
だらしない笑みを押さえることができなかった。
やがて出し切ってスッキリした醜い動物たちがふらふらと
わたしに寄り添ってきて、少女の柔らかなぬくもりに
安堵し、知ることの叶わなかった母の愛を受けて、
乳房に食らい付いきながら甘えて声を上げ出した。
その想像すら恐怖のあまりショック死しかねないおぞましい
光景に、一層満足した私は、届く範囲で彼等にキスをする。
どろどろのマグマが詰まった白く柔らかな山はおへそを頂きに
讃え、彼等の不快な粘液にまみれた舌で強く舐め回されるたび
形状を変えながら淫猥な光沢を纏っていく。それはまるで
聖魔の合体を抽象的に画いたエキゾチックな芸術品のよう。
もう、誰もあのガラスケースを見ていない。
何もかも忘れて、みんな私に夢中だった。
ケースを何の気なしにぼーっと眺めていると、
ふとある文字を発見する。 それは手書きでこう書かれていた。
"Pandora"
…パンドラ。この話なら聞いたことがある。
神ゼウスが人間に復讐する話、ギリシャ神話だ。
ゼウスは泥から女神に似た人間の女を創った。
このころ地上には男しか存在していなかったから
さぞ渇望の対象としては劇的だったことだろう。
そして彼女を完全にするため神々はその女、
パンドラに様々なものを与える。
アフロディーテは美を、ヘルメスは勧誘を、
アポロンは音楽を授けた。
パンドラは美しく、誘惑的で、ときには歌を歌い、
ついにはある男の妻となったなだけれど、
これが災厄のはじまりだった。
パンドラはゼウスから化粧箱を預かっていた。
中に何が入っているかきかされていない彼女は、
決して開けてはならないと言われていたのに、
そう言われるほど好奇心は押さえることができない。
ゼウスは彼女が人間であることをよく理解していた。
そして、ついにパンドラは箱の蓋を開けてしまう。
途端に中からは、病気、嫉妬、怨恨、戦争などの
あらゆる災いが溢れだし、人間世界に広まってしまった。
彼女が慌てて蓋を閉めたとき、箱の中には唯一
希望だけが残されていたという…。
この話を友達の綾ちゃんと喋っていたとき、
この放たれた災いが人間に与えられた罰だとか、
いや残された希望こそが罰だなどと些細な議論をして、
盛り上がったのをおぼろげながら思い出す。
希望のない世界はない。今だからこそ、私はそう思った。

                つづく

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