Pandora (後編)

目を瞑り、耳を澄まし、深呼吸する。
意識を集中して、私の肉体の中心で起きてる奇跡を
じっくりと、じっくりと味わう。
暖かくて緩やかなまどろみ。羊水にとっぷり浸かって
眠る子供達。愛情の詰まった完璧の空間の主たちだ。
わかる、7匹の幼生、その意識を感じることができる。
地上で最も安息を得れる場所…母親の胎海の中。
 キ モ チ イ イ …
子供達の感覚が私の脳を伝って流れ込んでくる。
生意気な彼等は時には喧嘩をし、時には子宮壁に
ちょっかいを出してはママを困らせたが、孕んで
間も無い小さな体では可愛いものだった。
しかし、成長するにつれて幼虫の肉体も変型し、
醜く歪んでくると、可愛いでは済まなくなる。
タコとアオムシの合体したような異形、ハツカネズミ
くらいのサイズに育った彼等の機嫌を損なったりすれば、
すぐに暴れて母親を苦しめる。特に妊娠中のセックスは
彼等を極度に怒らせて、さらに中出しなどされれば
幼虫は狂ったように暴走して憤怒の意思を露にする。
「あ! ごめんね! ぁ、あう! 悪いママね、みんなの居る
 おなかの中に精子いっぱい出されちゃって…うわぁぁ!」
意識は朦朧として、常に高熱に犯されているよう。
汗だくで涙を流して、紅潮する肌、潤んだ瞳は定まらず、
腹を摩りながら子守り歌を歌って精一杯7匹を慰めた。
やがていよいよ成熟してきた幼虫たちの大きさは猫ほどもあり、
その胎動は、拷問と呼ぶのも生易しいほどの苦痛を伴った。
腹の底からギィ!ギィ!と鳴き声が聞こえ、いっぱいに
詰まった触手と肉塊の蜷局が子宮壁に押し付けられ
のたうち回り、歯のない口で噛み付いて、必死に母親を攻めた。
それはもう子供特有の不機嫌という段階ではなく、
ついに安息の地から押し出されそうな恐怖に対して
がむしゃらに抗う様だ。私は何度も悲鳴を上げた。
生きたまま喰われるような、あるいは業火に腹だけ焼かれるような、
凄まじい衝撃。白い腹がうねうね歪んで幼虫の形に撓んだ。
それでも私は畸形獣との性交渉を止めなかった。
彼等も苦しみ悶える私を強引にレイプする楽しさを覚え、
妊婦少女の非力は肢体を四方八方から押さえ込んで、かわるがわる
胎児の暴れる下半身に男根を突っ込むと、デタラメに掻きしゃくる。
嘔吐と失禁、つわりの粋を超えて咽から噴き上がる体液。
破水して流れ出し、一層膣の中をかき混ぜるおちんちんの
滑りを良くする羊水。柔らかくて暖かい腹の肉のうねりを
好奇心からか、他人の子を堕児にするためか、
無慈悲に殴る者まで現れ、私は何度も何度も痛覚の激震による
ショック死一歩手前までイき続け、まるで壊れたオモチャだった。

私は完全にバカになっちゃったみたいだ。
妊婦でありながら彼等の相手をし、不具で
動けない者たちとも定期的に関係した毎日。
十分に熟した果実のようなおなかは、今にも
か細い枝からこぼれ落ちそうで、私は
両手で大事に、勝手に動くボテ腹を抱えながら、
不具者たちの溜まり溜まったわだかまりを
胎児の数匹詰まった慈愛の空間に放出させる。
破水しっぱなしで、羊水をだらしなく垂れる口。
腹は、性器が繋がったまま揉みしだく者もいて、
むにむにと柔らかくなってしまった。
腹の羊水は、どっぷりと精液で濁り。
胎児たちの機嫌も悪そうだ。
中からギチギチと鳴き声が聞こえる。それも多数。
「ほら見て、あなたたちの赤ちゃん、
 こんなに元気にママのポンポン虐めてるよ」
彼等の顔や腹に、柔らかく熟れた実を押し付けて、
今、目の前の精液処理少女に何が起きているか教えた。
ブクブクと膣が泡立って精液と羊水が滴る。
いつ暴れん坊が飛び出して来てもおかしくない。
そんな日々も第一の関門を迎える。
ついに来た。出産だ!
視界が淀んで汗が滝のように流れる。
腹の中から奇怪な鳴き声を上げる胎児に、
私は精一杯の愛情を送ろうと念じる。
居心地の良い母の子宮にも飽きたのか、
身を捩り暴れて、私を執拗に苦しめ、
這い出そうと、焦らし焦らし動き始めた。
「あ、、い、いい子ね、、う、ガンバって、
 ママに、、可愛い、、姿を見せ、、ぐ!」
つわり。涎しか出ない。
陣痛の周期は臨月のそれ以上に小刻みで苦痛。
焼けるように熱いようで凍えるほど寒いようで、
すべての関節が軋み、肉が引きつり、歯を食いしばる。
頭が割れそうだ。耳鳴り。涙。悲鳴を数回上げた。
「あ!あっ!ひぃぅぅ、、う!」
膨らんだ腹は十分に熟した果実のように艶やかで、
その白い肌が胎児の動きに合わせ躍動している。
「がっ!、、がっ!、、がっ!、、」
なんという激痛だろう。
昔は医学に頼ることもできず、出産の苦痛で死ぬ者も
珍しくはなかったと聞いたことがある。
女にしか味わうことのできない苦しみ。
男だったらとっくに痛みでショック死していることだろう。
「ぜぇ、ぜぇ、、ふぅ〜…ふぅ〜…」
必死に乱れる息を整えようと呼吸する。
最悪に醜悪な奇形の子、異常のカタマリ、
産むことも、産まれることも罪悪な存在。
私のこの死ぬほどの苦痛は、感動に色付いて
脳を焦がし尽くした。
そして最高の衝撃がじっくりゆっくり出口を目指し
ついにその恐慌的な一角を現した。
「ひゃぁああああああっっ!!!」
両足を大の字開きで限界まで躰をエビ反る
私の股ぐらから羊水の噴射が巻き上がり、
その神聖な瞬間を凝視する父親、奇形動物たちの
視線を一身に、そして私の一部分に受け、
その恥ずかしさと喜びと激痛に気が振れたのか。
「ーーーーーーーーーーッッッ!!!!」
私は絶頂を告げた。
這い出した幼虫の産声は、この世のものとは
思えないほど不快でおぞましく、やはり
知性の欠片もない肉のナメクジ。
出産は一匹ではない。たて続いてまた一匹、一匹と
まるでわざとじらして私を嬲ってるかのように
長時間に渡って産まれ続けていった。
「!  !! ! がっ ! ぅ!  」
眼球の痙攣は尋常でなく早過ぎて白眼を剥いてさえ見えたか、
失明した左目も同じで、凄まじい衝撃で白髪になっていく。
意思に反してぶるぶるガクガク震える肉体は砕けそうだ。
いったいどれほどの時間、味わっていたのかもう分からない。
最後の七匹目の出産を終えた時点で半分気を失っていた。
完全に脱力しイキつづける私の内ももを伝い、
へこんだ腹の上に乗ると、乳房を目指して
ニュルニュルと進み始める子供達。
母親の栄養をたっぷり啜ってよく肥えた幼虫は
思いのほか重く、それが私のやり遂げたという充足感を増した。
へその緒が引いて胎盤を引きずり出し、
空っぽになったおなかはグーグー鳴っている。
乳首に吸い付いた坊やは嫌らしく音を立てて
ミルクを飲み、同時に器用に触手を使って
おっぱいを揉みしだく。まるで本能が、そうすることで
乳の出が良くなることを知っているかのようだ。
「あ♥ 良い子ね、ママのおっぱいもみもみして…
 ん、はぁ…キモチぃ、お乳吸われて気持ちいよぅ…」
歯がぐらぐらする。びくびくと全身の断続的な神経運動も治まらない。
ギャーギャーと群がる幼虫たちを感じながら意識が薄れていく…
…もったないな…折角生まれて間もない大切な瞬間なのに…
出産中は何度も意識が飛んで苦痛で目覚めての連続だった…
今度は意識も麻痺させず、痛覚から逃げないで受け入れよう…
そういえば昔の拷問具で、逆さ吊りにすると血が頭に昇って
意識を失いにくいと聞いたことがある…。
微かな考えが過り、あろうことか私はすでに次の出産に想い馳せていた。

「はぁぁぁ〜〜〜、、、アハ、、ふぅ〜、、」
出産の後の達成感は、何よりも至福の瞬間だった。
乱暴に乳首に群がる幼虫たちは、いずれも
悲惨極まりない奇形で、身体が二匹くっ付いていたり、
目玉がびっしりついていたり、内蔵が飛び出ているせいで、
父親達にすぐ喰われてしまった哀れな子もいるようだ。
お乳を吸ってのたうちまわる子供達をまるで無視して、
大人たちは、出産直後のやりとげて疲労しきった
私を容赦無く犯した。
まだへその緒も切れてないような膣へ潜り込むおちんちん。
感じ過ぎてびくびくと痙攣反応を強いられる幼い肉体。
彼はへこんだ腹の肉にかみつきながら射精すると、
弱り切った子宮の中、卵子を見つけることの出来ない
精子たちの悲痛な訴えが脳内に木霊している。
じっとりと汗に濡れ、完全に無力と化した少女は、
出すたびに反応するだけの、実に張り合いのない肉便所だ。
へその尾から引きずり出すように胎盤を排出すると、
待ち構えていた他の性欲の亡者達が連なって縋る。
私はきっと、もう人間じゃない。
光の加減なのか驚くほど白い透き通るような肌と
肋や鎖骨の浮き出る肉の薄い体。それでいて柔らかく
実った大きなマシュマロおっぱい。白銀に染まった髪、
兎のように瞳は紅く変色して、声質も幼く淫媚になったよう。
徹底的に子孫を残すため特化した肉人形。
受精のためのアルゴリズムはどんどん効率化していった。
私のねぶり落した幼虫である肉ナメクジに乳を与えながら
溜まった者の順にまぐわって精子を体内で受け取る。
特に産後、卵子生成完了とりわけ最初の危険日には、
最も劣悪な状態の化け物から優先して交尾交配を行う。
ワースト1位から8位くらいの精液を腹に蓄えたあたりで
一度休憩。また、セックス開始から約一日の間は
特定の場所で躰を休めることにしている。それは
斜になだらかな肉の滑り台で、その一部が定期的に
躍動している場所だ。そこに頭を下、足を上にするよう
寝そべり両足を脇穴にかけると丁度わたしの腰の底面が
ぐりんぐりんと前後に動かされ、腰をシェイクしてくれる。
わたしはだらんと逆様になってじっくり長時間、
下半身を揺すられながら、重力によって、より肉体の
中心へ侵入していく力強い精子たちを実感しながら
幼虫を抱き締め開放感に酔いしれるのだ。

こうして始まった生活は、まさに最低の最高だった。
無駄に異常繁殖を続ける奇形怪獣。彼等はわがままで、
私が思い通りのテンポやタイミングで射精させないと
乱暴に私を蹴ったり噛んだりした。私は常に彼等の
奴隷であり、絶対服従であり、言葉の喋れない、
意図の伝達ができない下等生物たちの感情や欲求を
態度や奇声などからおもんぱかって行動しなくてはならない。
贅沢になってきた彼等は「オイッ!」とまるで日本語みたいな
ニュアンスで私を呼び、好きなとき好きなだけ関係する。
考えてもみれば、マンガやゲームはもちろんのこと、
寝たり食べたりすることでさえ娯楽になりえないこの世界に
産まれて、唯一知った悦楽と快感なのだから、そこを
貪欲なまでに追求していくことは当然かもしれない。
「い、今、行くから、ね、おちついて」
優しい声で宥めながら、太い血管が肉床に根をおろし、
歯並びの悪い大口から触手のような舌を四本振り回す
昆虫標本のような彼に跨がって許し嘆願する。
膣圧でおちんちんをしぼり込むように…なかんずく
おへその裏でゴリゴリ当たるカリ部分の段差を刺激するよう、
意識して腰を前後。上下左右回転、ナナメ押し引き、
おなかをよじって内ヒダを別の生き物のように扱い、
生の肉と肉の絡み合いを堪能させる。
ちょっと前はそれでイければ満足だった彼も要求は高くなり、
例えば思い通りの時点でイかされないと怒りを露にするのだ。
射精は一番噴出の勢いがいい最高潮の瞬間にイかせること。
うっかり出ちゃったでは満足してもらえない。
よし出すぞ出すぞと感情を高めて出す、そして同時に私も
絶頂しなくてはいけない。フリでイってもすぐ伝わる。
あなたの精子を受精できて心から感激し感謝してますでイくのだ。
そして射精の瞬間に対する願望は妖獣ひとりひとりで違った。
ディープなキスをしながら中出し、おっぱいをちゅーちゅー
吸いながら中出し、彼の両乳首を弄りながら中出し、様々。
困るのは赤ちゃんを身体に張り付けていることが殆どだから、
おっぱいを占領されてるとやはり激昂して、そのまま授乳してる
赤ちゃんを食べてしまう場合もあること。死の際まで吸うのを
やめない赤ちゃんたちのおかげで、乳首が少し伸びてしまったよう。
ここまでしても尚途中。事後処理も一生懸命しなくては怒る。
子宮内に完全に出しきって半萎えのおちんちんを、ぴくぴく
痙攣してるアソコでやさしくじゃぶり取りながら引き抜いてすぐ
膣口を閉じ、決して子種を流れ出させてはいけない。
一滴でも無駄にしたのを見ると憤慨しお仕置きされるからだ。
(お仕置きと言っても彼は動けないから、床から突き出した足の
上へ私自ら四つん這いになり、妊娠中のおなかにあまんじて
何度も蹴りを貰ったり、身体中の大事な部分をあのムチの
ようなベロで叱られるため、眼前で無抵抗のブリッジしたりする)
彼は引き抜く瞬間、性器の結合部をじっとり見つめ監視する。
その後のお礼も必要だ。ありがとうございます。感謝してますと
精液を出してくれた彼等に頭を下げ、汗を拭ってやり、
咽を潤してあげる。どんどん態度は大きくなるけど、それでも
今までの彼等の不幸を思えば私の母性本能は充足するのだった。

妊娠中の膨らんだおなかに顔面を激しく押し当てる
狂獣がいる。彼は手も足もグニャグニャに曲がって
悲鳴のような鳴き声でよだれを垂れるものぐるいだ。
気に入らないことがあると、しきりに頭を床に打ち付けて
訴える。そんな彼が唯一の楽しみにしているのが、
わたしの腹への顔面突きだった。それはわたしにとって
苦しみを伴う奉仕だったけれども、彼の苦しそうな
普段の姿を見兼ねて、よく腹が膨らむと、その白く
柔らかいサンドバックを差し出した。嬉々として彼が
わたしにのしかかると、圧迫感でおなかの子が鳴き出す。
「あ…あかちゃ、ん、大事にしたい、けど…でも…
 好きにしていいよ、、わたしの、おなか、、もう、
 好きなだけ…めちゃくちゃにしていいから!」
涙を流しながら、この著しい重度の脳障害動物に献身し、
その攻撃的顔面を抱き締めた。同時に激しいコックが
胎児を揺らすほど幼い母体を襲い、私は押し殺すような
悲鳴を漏らしながら、つわりに顎を伝い咽まで濡らした。
彼は更にわたしによじ登って勃起した包茎のおちんちんを
妊婦特有の可愛いおへそへ押し付けると、腰をがむしゃらに
前後する。苦しくて死にそうなのに、力いっぱい抱き締めた。
「ぅぐっっ!、、げぇぇぇっぇ、ぇ、、ぇ!!」
あまりの無慈悲な攻めに嘔吐してしまう。破水した腹は
漏れた水風船のようにたゆんで、恥ずかしい割れ目からは
腰を腹に押し込められる度、勢いよく羊水が飛び出している。
今度は大きな歯の無い口を持つ妖獣が羊水を啜るため
近付いてきた。ぴゅっ!ぴゅっ!と水鉄砲のように跳ねる
羊水を大口をあんぐり開けて飲んでいるのを、わたしは
無意識か両足で大口の妖獣の頭を、まるで溺れる者のように
必死で引き寄せ、股の間にガッチリ抱え込んでいた。
大口は直接密着して、ばっくり口にくわえた股を確かめ、
長い舌で膣を抉じ開けながら進むと、さらに噴出を強める
羊水の美味に我を失い、無我夢中でじゅるじゅる下品は音を
たてながら吸い上げている。やがて硬直して離れなくなった
わたしの両の手足は痙攣を始め、
「ぎゃううぅぅぅぅぅぅっっ!!!」
どびゅるるん!
膣から実が飛び出す。それはまだ生まれるには早い胎児の実。
そのまま大口の咽に流れ込み、胃へと飲まれてしまった。
ぐーぐーと鳴りながらへこんでいく少女の腹の上を
汚く白濁で汚し落ち着いた顔面突きの狂獣は一段落して動きを止めた。
わたしはむりやり早産させられて死にかけながら絶頂してしまっていた。
大口は不完全な胎児の材料もろとも、へその緒も胎盤も
吸い上げて喰ってしまう。
快感のあまこれ以上ないほど勃ち上がったママの乳首に
ミルクをむさぼりつづけていた幼虫たちは驚いて歯を立てた。
ぜぇ…ぜぇ…と滝のような汗、そして涙に霞んでいく視界の先に
ようやく離れた手足を引きずって狂獣にキスをするわたし。
「また…おなか大きくなったら…来るからね♥」

夢を見た。
現実の恐怖が狂気を誘って、悪夢など恐れなくなっていたのに、
不思議とやっぱり悪夢は苦しいものだった。
わたしは学校の制服を着ていて、それが恥ずかしくて裸になろうとしてる。
夕焼け空がぐるぐる回ってる。
ゴミ置き場を見ると、半透明のポリ袋にカラスが詰まってて、
頭の中にコーロギの鳴き声が響いてる。
わたしの内股を暖かいぬめりが伝い落ちると、
びちゃびちゃと不快な音をたてて何かがアソコから出ているようだった。
スカートで見えなかったそれは、地面に落ち、のたうちまわっている。
どんどん出てくる。
胎内で増殖する胎児の永遠に続く出産のようだ。
痛みはなかった。
ただ肉をかき分けて這い出してくる感覚が不快でならなかった。
呆然と空を見上げて立っていたけれど、
びちゃびちゃと産まれ続けているのもほっておいて、
わたしは歩きはじめる。
商店街には顔の見えない店員たちが何か売っている。
宝くじで1等が当たったベルの音。
ゆっくり時間が溶けていくような…
後ろを振り返る。
家がある。
ダメだ。
あそこにはきっとわたしがいる。
パパとママとチンプイと幸せに暮らすわたしが。
わたしは走り出した。
まっくろな家が近付いてくる。
逃げて、逃げて、逃げて、
海に飛び込んで耳をふさいだ。
地球が見える。
ちっぽけな人間が蠢いている。
これが真実だ。
世界はこうなってるんだ。


静かだった。
一瞬、目が覚めたことを疑うくらい、
そこは眠りにつく前の絶望の穴とは様変わりしていた。
わたしを犯した畸形たちも、わたしの産んだ子供たちも、
すべてがミイラのようになって死んでいた。
あの、彼等が崇めていたケースの蓋が開いている。
何かの拍子で倒れてしまったのだろうか。
それはあたかも、私によって堕落した住人たちに、
激怒し神罰を降したとさえ思えて、
少し心が痛んだが涙は出ることがなかった。
「…帰ろう…」
暗く沈んだ洞穴の先、ここへ来た時の入り口から
光りの線が何本も降り注ぎ、あの肉ヒダの門番も
渇いたヘドロのように穴廻りに付着しているだけ。
おなかの中の子供達はしきりに動いて、私に
生きてることを知らせ、慰めてくれているようだ。
頭痛とつわりによろよろしながら私は出口に手をかけた。

               -END-


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