01.姫子(その1)

「やめて! お願い!!」
石動 澪の必死の懇願も聞く耳持たず
関口 隆司は織月 姫子への非情な暴力を続けた。
姫子はうずくまって涙を流し、隆司の蹴りに堪える。
「あんたとんでもないことしてくれたよねェ」
飯塚 麗香が軽蔑の眼差しで姫子を見下した。
リンチが終わっても全身が痛くて、姫子は呻いている。
水着が破かれズリ落ちて殆ど全裸に近いのがまた痛々しかった。
海の上のクルーザーの中だからか平衡感覚がおかしい。
彼等の横には血を吐く一人の男の死体。曽根原 雅彦は
ビキミ姿の澪をふんじばったまま恐る恐るそれを一瞥し
「おい、とにかく竹村なんとかしようぜ」
と切り出し、隆司もまだ蹴り足りない様子ながら
雅彦の提案に賛同する。とりあえず澪と姫子を食料倉庫へ
放り込み、ソファに腰を下ろしてやっと一息付いた。
「冗談じゃねぇ…あのクソ女、ふざけやがって」
怒りに目をギラつかせながらソファ横のポールを殴る。
竹村と呼ばれた死体は白眼を向いてだらしなく伸び、
その無気味さに雅彦は思わず視線を剥がした。
こんなこと今までなかったアクシデントだ。
雅彦は地元でも支持の高い国会議員の次男に生まれ、
権力下の富裕に恵まれて何一つ苦労することもなく
生きてきた。そんな彼唯一の苦労は退屈をどう
紛らわすかで、欲しいものは何でも手に入るせいで
大抵のことに飽きていたからだ。そんな時、大学で
隆司と知り合う。隆司は凶暴で残忍な性格をしていたが、
この退屈な生活に刺激的なゲームを与えてくれた。
それがレイプだった。
ターゲットはおとなしそうな女子高生。金目当てで
くっ付いてきた麗香や、隆司の仲間の竹村も加わって
犯行は計画的に行われた。
まず雅彦と麗香で獲物を誘い、予め用意しておいた
餌場へ連れ込むと隆司と竹村が待っていて強姦が始まるのだ。
行為は一部始終麗香によってビデオ撮影され、脅迫の
材料となり、以後は金も体も飽きるまで自由に出来た。
やがて隆司が、もっとじっくり楽しみたいと言い出す。
そこで雅彦はクルーザーを用意。
一度乗せてしまえば簡単なものだった。
一定期間霧がかかって外部と通信できなくなる海域がある。
そこへ連れ出し、数日に渡って強姦と調教を楽しむ。
「なんでこんなことに…」
ふさぎ込んで雅彦は唸った。
それは隆司も同じだ。いままで散々女を殴り蹴ってきたが、
一度だって刃向かった者はいなかった。刃物をちらつかせ、
逆らえば殺すと脅し、その上で髪を掴んで振り回しながら
徹底的に痛みを覚えさせる。そもそも逆らいそうもない
気の弱そうな娘を狙ってきたのだ。抵抗するなど
ありえるはずがなかったのだから。
女は面白いほど非力だった。軽く殴っただけで倒れるし、
腹を蹴れば吐いて、乳首にタバコを押し付ければ悲鳴を上げる。
その反応が可笑しくてたまらなかった。
こんな貧弱な生き物が自分と同じ人間だとは思えない。
そう考えてさえいたのだ。
だがアクシデントは起きた。
クルーザーの奥の部屋から現れた隆司と竹村を見て
澪と姫子は狼狽した。恐ろしげな男二人組に襲われ
まず処女である姫子を先に犯すことに決まる。いつものように
「逆らうな!」と釘を指してから水着を破いてカメラを回し、
竹村が姫子の唇を奪った瞬間、異変は起きた。
恐怖のあまり我を忘れ震えた姫子が、意思と関係なく
竹村の舌を噛み切ってしまったのだ。
ここにいる誰も応急処置の方法を知らず、さんざん
のたうち回った竹村は、ついに窒息死した。
「くそ!」
雅彦は膝を叩く。今までにも強姦ビデオを使って金を脅迫していた
少女が自殺したことはあったが、それは勝手に死なれただけで、
こっちはたいして困まらない。ところが今回は違う。
このクルーザーの中で仲間が殺された。正当防衛だろう。
バレたらどうなる? 父親の権力で刑務所行きはないだろうが、
いままでのように…とはいかないだろう。
雅彦はサッと血の気が引く思いだ。
「とりあえずさー、タケちゃん海に捨てない?」
ため息まじりに麗香が提案。雅彦は我に返って答える。
「そうだな、せめてここが俺の船で良かった。
 誰にも知られることなく隠蔽できるからな」
隆司は分かってんならさっさと片付けろと命令し、
死体運びをやらされながら雅彦の横でそれを眺めている。
まったくの傍観者。
甲板の男ふたりを後目にビールを一口啜ると、
ワインレッドのビキニを着替えないまま
麗香は掌で天井を扇いだ。
何かあっても男のせいにすればいい。
その程度にしか考えていなかったのだ。
澪、姫子、麗香、そして雅彦と隆司。
既にこのクルーザーが異形の影に取り付かれていたことを
まだ、誰も気付いてはいなかった。

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