10.虫(その3)

「澪ちゃん。ダメだよ澪ちゃん。あの子は私を迎えに来たんだよ」
まだ微妙に痙攣する姫子の肢体は、糸が切れたようにガクんと膝をついて
澪の体に折り重なった。
「ごめんね澪ちゃん。痛かった? でも、澪ちゃんも悪いんだよ。
 あの子を殺すなんて非道いこと言うから・・・」
しっとりとした少女の柔肌が密着してテンポの速い動悸を伝える。
「(何を言ってるの姫子、あなたなの? 私を動けなくしたのは!?)」
澪のブレる視点の先に映るのは、やはり優しく微笑んでいる姫子。
「澪ちゃんはビックリしただけだよね? でも怖いのは外見だけだよ。
 澪ちゃんもあの子と一つに繋がればすぐに実感するから」
「(姫子、何を言っているの? 何を!?)」
澪の押し出す言葉はうめき声としてしか発音できない。
怪虫は電気による衝撃が回復し、
じりじりと澪たちの方へ這い寄る…。
「(助けて、ヤダ、そんなの嫌だァ!)」
床に伸びたまま涙に潤ませた瞳で迫りくる怪虫の顔を直視する澪。
「ひっ、、、ひっ、、、ひっ、、、」
鼻先も耳も真っ赤にしながら、しなだれかかる姫子に
言葉にならない悲鳴で懇願する。
「(お願い姫子、正気に戻って、私を助けて!)」
その一部始終を目の当たりにして麗香は、この空間にいてはならないと、
一旦、あの丸窓の付いた甲板へのドアまで移動した。
だが、船外へ出たって、ここより安全な保証はない。
いよいよ警戒心が沸き上がって、麗香は姫子達を迂回するように
灯りのついた貯蔵庫へ走り込んで内側から扉を閉めた。
ただ倉庫は内側から鍵を弄れないので、自分の力で抑えてなくてはならなかったが。
再び
暗黒と赤色灯の占める不明瞭な空間へと変貌した船内に、
ギチギチと鳴く虫の奇声と澪自身の乱れた呼吸が渦を巻く。
「澪ちゃん。受け入れて。そして一緒になろう」
澪の脇腹に密着した姫子の腹部がビクビクと動いた。
「あ、動いた。澪ちゃん、今伝わった? 赤ちゃん動いたよ」
確かに伝達された感触は、姫子の中からの主張だ。

“ オ レ ハ コ コ ニ イ ル ゾ 
  ス グ ニ オ マ エ ノ ナ カ ニ イ ク  ”

澪の脚に怪虫の舌先が当たり、それはふくらはぎを舐め上げて、
すぐに内股にまで達していた。
これから何が起きるのか、わかろうなどとは思わない。
わかりたくなどない。
でも、澪の沈着な分析癖はアダになった。
奴らは寄生虫なのだ。
本来何に寄生するものなのかはわからないが、人間もその対象になる。
こうして遭難者を襲って犯して子孫を増やす。
もしここで、子宮の中に寄生虫を植え付けられたらどうなるのか?
勿論、こいつの子供は生まれて来るだろう。
では母体は?
二度と赤ちゃんの産めない体になってしまわないか。
それどころか、青虫に寄生するハチノコのように、
腹から内蔵を喰われてしまうかもしれない。
姫子はショックのためなのか、混乱してこの怪物を味方だと思っている。
姫子にとっては幸せかもしれないが・・・
「(死んじゃう! 中に出されることだけはダメ!)」
怪虫にはさっきの澪の電撃に対して、怒りや復讐心は感せられなかった。
代わりに交尾に焦る激しい興奮がひしひしと感じられる。
全身で伸しかかった怪虫は、
澪のソコに
いきり立つモノを突っ込んだ。
「あぐぅ!」
入っている。
ついに入っている。
恐怖とおぞましさのあまり頭の中がホワイトアウトしてから、
澪は、
生涯上げたことのない金切り声を発していた。
裂けんばかりに目玉を向いて、
「ぎぃ!ぎぃ!」
これを受け入れてはいけない。
これを孕むことは生命の危機と悟っているからか
肉体の本能的な拒絶反応は凄まじく、
全身が跳ね上がって
反り上がって、
手足を滅茶苦茶に動かしながら、自分を
羽交い締めて突貫する巨怪を除けようと必死に抵抗した。
だが、何倍も重く、頑健岩のごとき図体は、メスへの貪欲な生殖欲求の前に頑なを極め、
非力な抗いなどまるでおくびにもかけない様子だ。
その内、神経がこれ以上の不快を味わいたくないのか麻痺し始め、
少女の白くしなやかな身体のエッジは、放心状態のままに痙攣をし出す。
第二次性徴を過ぎて女性的な円みをおびた隆起は、
容赦もなく慈悲もなく、
イソギンチャクのような無数に並ぶ触手で粘液にまみれながら、
痛みを伴うほど激しく弄ばれていた。
中に感じるのは人間のものではない異形の肉根。
しかし器具や玩具でもなく、間違いなく熱く脈打つ雄の本性そのものであった。
「ふぎぃぃぃィィィィィィィィィィッッ!!!」
「クるよ澪ちゃん。今出してもらえるからね、ちゃんと子宮口開いて「赤ちゃん」受け入れて!」
姫子は寝そべって澪の頭を掴むと、その横顔に下腹部を押しつけた。
お腹の中でしきりに動いている幼虫の胎動と、
かすかに聞こえる虫の鳴き声が密着から伝わって、
一層、我を失う澪。
「うぎあがぁう!」
「落ち着いて澪ちゃん。澪ちゃん!」
根本まで押し込まれた生殖管の先端が子宮の奥壁に届いたと同時に、
少女の骨盤が悲鳴を上げるくらい怪虫は腰を押し込んで締め上げたまま固定される。
澪の恥唇が埋まる肉管の中を生きた塊が進んでくるのがわかった。
それは膣の道程でも奥へ奥へ深部に突き進み続けるのが実感としてわかった。
そして、幼虫はついに先端へ辿り着き、目指した居場所へ解き放たれたのだ。

ゴビュルルルゥゥゥッッ!!

びちびち!

「!!!ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー」
妊娠経験の無い狭い子宮の中を、縦横無尽に暴れた幼虫は、
しばらくしてそこが居心地の良い母体の中と理解して安心したのか、
にゅるりととぐろを巻いて居座った。

「澪ちゃんも、これでママだよ♥」

次のページへ

▼Toppage